愚者の繰言

君は、あまりにも愚かしい。そして、等しく愚かなのは。

くちびるが離れ、こちらを見つめる瞳は揺らいでいる。
何も言わず、ただ見ていると、諦めたように視線をそらした。
「さようなら、ルルーシュ」
君にそんな声を出させてはいけなかった。もっと徹底的に嫌われるように終わらせなければならなかった。
「最高評議会は体育館で行う予定です」
事務的な口調。そしてカレンは遠ざかっていく。
「さようなら、カレン」
別れは、俺から告げねばならなかったのに。
君がさっさと見切りをつけて、忘れられるように。冷たく威張り散らして、嫌われるように。
どうしてそれをしないのか。
こんなふうにいじましく君に聞こえないようにしか、君に言われた後でしか別れを告げられないのか。
君のような愚直な人間を騙すのは簡単だ。嘘をつくのを呼吸をするように自然にやれる自信もある。
それなのに、できなかった。詰めが甘すぎる。
あの時、「君は生きろ」といわなければ、カレンはもう整理をつけてここに来ないで済んだかもしれないのに。
嫌われることを、これほどに恐れている。

頭は悪くないのに、愚かしいほどまっすぐな君は、ただの利用しやすい駒のはずだった。
演出に簡単に酔って、ゼロのことをすぐに信じきるようになって。
ちょっと弱みをつつけばころころと表情を変えて反応する。
刷り込みでこちらを親だと思っているひよこをからかうときのように、ただ愛らしいと思っていたくらいだった。
君と母親の事情を知って、わずかに自分の姿と重ねて、他の駒より目をかけていただけで、特別な感情は何もなかった。
見捨てて逃げたのだって、別にたいした問題だとは思わなかった。どうせ目の前のスザクへの憎しみだけで俺の目はくらんでいたのだから。

君が俺を連れ戻しに来たのだって、利用できる力を取り戻したかっただけだと思っていた。
C.C.と違って、カレンは俺である必要はないはずだったから。
ただ仲間を取り戻すためには、俺の力が必要だと考えただけだろう。
真面目で仲間想いなカレンがそういうふうに考えるのは当然で。
そう思っていた。

いつでも手放せるようにしていたかった。
大事なものを増やしたくなかった。
幾度も幾度も嫌われるようなことをして、嫌われるように仕向けて。
それでも君はやってくる。
辛いときに、諦めたときに。
君が言葉を求めるのは、言葉なしで成り立っていた信頼を俺が裏切ったからだ。
それなのに、また言葉で裏切り続けているのに、君はやってきた。
何度もやってきて、そのたびに裏切られた君は泣くのだ。
そして、今日は、泣くことすらできていなかった君。

君にかけた言葉は、奇しくもスザクにかけたギアスと同じで、全く別の意味で呪いとして君を縛り付けてしまったのだろうか。
カレンが想いの意味に気づかないうちに、嫌われて終わりにするのが一番だったのに。

それなのに、嫌われることがこんなにも恐ろしい。
カレン、君が最初から好意を持たなければこんなことにはならなかった。
俺に何かを求めるという愚かしい行為をしなければよかった。
ひたむきな君が、こんな人間に好意を持つ必要はなかったのに。

君は生きて、幸せになれ。
俺の目に映らないところで。
光に誘われる羽虫のように、ふらふらと吸い寄せられずにに済むように。

自分を壊す覚悟ができても、君を壊す覚悟ができない。

だから

俺は、この感情に名前を付けはしない。


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